年老いた執事の姿のボーグはマシエリの部屋のドアを開けると、トレーをもって入ってきた。
「エリスお嬢様のお好きなハルフレームのケーキでございます。お客様のおみやげでございます」
ボーグが微笑むと、
「ハルフレームの! まあ、素敵なお客様ね。一区切りついたらいただくわ」
とマシエリがこたえた。
「ホホ。では、こちらにお置きしますね」
執事はピアノからやや離れたところにあるテーブルにトレーを置いた。
「今夜は大変お冷えになります。お嬢様、あまりご無理なさらずに」
「ありがとう、ボーグナイン」
マシエリが微笑むと、ボーグは深々と頭をさげて、部屋を出ていった。
マシエリがピアノを弾き続けると、外は夕方になり、雨はどしゃぶりになっていった。
マシエリはピアノの手を止めると、テーブルへと歩いていった。
椅子に座って紅茶を飲み、ケーキを一口食べると、マシエリは幸せな顔を浮かべ、足元のミュウにケーキをひとかけらあげた。
マシエリがふたたび紅茶をひとすすりすると、ミュウがガクガクと震えだし、ゴポッと血を吐いて倒れた。
「ミュウ!」
ドンドンと激しく部屋のドアをノックする音が響いた。
マシエリが返事をするまもなく、執事が部屋に入ってきて、後ろ手に鍵をかけた。
執事の両手と腹は血まみれで、よろよろと足元がおぼつかない。
「お嬢様! そのケーキ、召しあがらないでください!」
「ボーグナイン……、どうしたの?」
「ここからお逃げください!」
(TO BE CONTINUED)